ITストラテジスト過去問解説【令和3年 午後2】

IPA ITストラテジスト試験午後2の論述問題ポイント解説です。

対象は令和3年試験になります。

目次

ITストラテジスト問1 デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について

最近話題の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に関する題材です。

まずはDXの意味についておさらいしましょう。

おおむね「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」というIT化といった意味合いで用いられる。

ウィキペディア

根底から変化させるという強めなワードがありますが、意味合いとしては「従来の延長線での機能改善ではなく、事業レベルをITで根本的に変革する」くらいの意味でとらえておけばいいでしょう。

問題文に例として記載されている内容も「ICタグによる在庫管理と外部システム連携」「AIと画像解析による新サービスの提供」というITで根本的な事業変革をもたらしたテーマが挙げられております。

設問ア あなたが携わったDXを実現するための新サービスの企画について,背景にある事業環境,事業特性,DXの取組の概要を,800字以内で述べよ。

ポイント

「事業環境」「事業特性」は毎年と同じですね。準備してきた内容を記載すればいいかと思います。(準備はしっかりとして来てください!)

ポイントは『DXの取組の概要』ですね。この軸がぶれてしまうとその後の設問で論述する内容に一貫性がなくなるので、書き始める前にしっかりと固めましょう。

おさらいにも記載しましたがデジタルトランスフォーメーションとは事業をITで根底から変革することですね。では、世の中の企業がどれだけDXを実践できているでしょう。

一方で、デジタル技術を活用して「既存製品・サービスの高付加価値化」(11.7%)および「新規製品・サービスの創出」(10.8%)といったDXへの本格的な取り組みを進めている企業は1割にとどまっています。

帝国データバンク DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に関する企業の動向アンケート

これは数年前の記事ではなく2021/12/8の内容です。調査期間も2021年12月2日~7日です。

この題材に自らの経験として回答できるのは1割の企業の中の、さらにそのDXプロジェクトに参画した方のみです。

では、それ以外の9割以上の方にはこの問題は回答できないのかというと、そんなことはないですね。テーマが何であれ、ITストラテジストとして求められているものはIPAのシラバスにも記載されています。

  • 経営戦略に基づくITを活用した事業戦略の策定
  • ITによるビジネスモデルの策定
  • 事業戦略の実現可能性確認
  • 情報システム戦略の作成
  • 全体システム化計画の策定
  • 個別システム化構想・計画の策定
  • 適切な個別システムの調達
  • 製品・サービス・業務・組織・情報システムの改革プログラム全体の進捗管理
  • システム活用の促進
  • 戦略の達成度評価
  • 組み込みシステム・IoTを利用したシステムの企画、開発、サポート及び保守計画の策定・推進

長くなりましたが、これらのスキルがあることを示せればいいわけです。問1は太字にした内容が主に問われます。

なので、問題文にあるような「AI」「IoT」などのワードとともにご自身だ携わった案件をDXっぽく論述していければOKです。

設問イ 設問アで述べた DX を実現するために,あなたはどのような新サービスを企画したか,ターゲットとした顧客とそのニーズ,活用したデータとディジタル技術とともに,800字以上 1,600字以内で具体的に述べよ。

ポイント

設問分の「DXを実現するために」の部分を抜くと『どのような新サービスを企画したか,ターゲットとした顧客とそのニーズ,活用したデータとディジタル技術とともに』となります。

この内容であればITストラテジスト試験合格を目指す皆さんであれば、通常業務内で取り組んでいる内容かと思います。自身の経験を踏まえてベースを論述し、あとはポイントでDXに関するワードを入れていけば論述完了です。

『新サービス』とありますが、別に真新しいアイデアについて論述することを求められている訳ではないので、自社としての新サービス(世の中にはありふれているが社内では新しい取り組み等)であれば十分題意に沿った回答になります。

設問ウ 設問イで述べたDXを実現するための新サービスを具体化する際には,あなたは経営層にどのような提案を行い,どのような評価を受けたか。評価を受けて改善したこととともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

ポイント

設問ウの内容は、論述テーマが何であれ使いまわし可能かと思います。問われる内容は毎年ほとんど同じです。

ポイントは下記です。

  • 論述対象を実現するための経営層への提案
  • 評価を受けた内容
  • 評価を受けて改善したこと

見れ頂けばわかる通り、ポイントに記載した内容には今回のテーマである『DX』という単語は一切出てきません。設問ウではテーマの細かい取り組みについて問われているのではなく、ITストラテジストとしての対経営層への立ち振る舞い事業戦略視点での課題へ取り組み内容といった内容が問われています。

また、設問ウを論述する上で意識すべきは設問アで論述した事業環境・事業特性との整合性です。

短い時間で論述を書き終えようとするとどうしても途中で軸がずれてしまい、例えば設問アで「売上前年比10%という事業目標」などを掲げているにもかかわらず

設問ウでの書き終え方が「~~という機能を無事に導入できた」になってしまっているケースなどです。

シラバスにも記載がある通り、ITストラテジストとして「戦略の達成度評価」も重要なスキルの一つです。論述したテーマの最終目的が『事業目標の達成』であることをしっかりと意識しているように論述しなければなりません。

これらを踏まえて、論述を書ききりましょう。

問2 個別システム化構想におけるステークホルダの意見調整について

問2は個別システム化構想についての論述になります。シラバスで行くと、この辺りですね。

  • 経営戦略に基づくITを活用した事業戦略の策定
  • ITによるビジネスモデルの策定
  • 事業戦略の実現可能性確認
  • 情報システム戦略の作成
  • 全体システム化計画の策定
  • 個別システム化構想・計画の策定
  • 適切な個別システムの調達
  • 製品・サービス・業務・組織・情報システムの改革プログラム全体の進捗管理
  • システム活用の促進
  • 戦略の達成度評価
  • 組み込みシステム・IoTを利用したシステムの企画、開発、サポート及び保守計画の策定・推進

シラバスにずばり記載があります。

ではIPAが定義する「個別システム化構想・計画の策定」は何を示すのでしょうか。

小項目概要
個別システム化計画の基本要件の確認システム化の目的,手段,要員,期間,納期,設備,コスト,作業分担,責任分担などの基本方針をシステム化構想から確認し,開発,運用,保守,テスト,移行,環境整備,品質に対する基本的な要件を確認する。
対象業務内容の確認業務処理と情報を情報システムの視点から整理する。
対象業務のシステム課題の定義対象業務の具体的な業務上の問題点を分析し,解決方向を明確化するとともに,情報システムを用いて実現すべき課題を定義する。
業務システムの分析対象業務のシステムが実現している機能,データ,システム方式,保守,運用方法,運用体制,管理体制,品質について確認する。確認された機能,データは,業務機能の再構築に活用しやすいように整理する。
また,同時に,対象業務が関連する他システムとの関係についても洗い出し,利用している機能,データ,運用方法,運用体制,管理体制,運用上のリスクを確認する。
適用する情報技術(IT)の調査業務の新しい全体像を具体化するために,技術動向を調査する。調査に際しては,目標,対象範囲,具体的な調査項目を設定する。調査結果適用のための検討を行う。
業務モデルの作成対象業務及び関連する全業務に対して,業務機能の再構成を行い,業務機能をモデル化する。
さらに,適用するITの調査に基づいて対象とする業務機能を検討し,その業務機能について全体の整合性をとる。また,業務及びシステムの主要な変更点と業務実施上の具体的課題をまとめる。
業務プロセスの設計業務モデルを実現するために,対象業務及び関連する全業務を整理し(As-is),業務機能の再構成及び業務プロセスを適切に設計する(To-be)。
また,システムを適切に活用するために,プロセスオーナ,システムオーナ,データオーナを明確にする。
システム化機能の整理とシステム方式の策定業務モデルから対象とした業務機能を支援するシステム化機能について情報と処理の流れを整理し,開発内容と優先順位を明らかにする。この機能を実現するために,必要なシステム方式(アーキテクチャ)を策定する。また,この機能の中で必要となる主要なデータベースとサーバ,ネットワークの構成を明確にする。
サービスレベルと品質に対する基本方針の明確化システムが提供する信頼性,性能,セキュリティなどのサービスレベルを明確化し,それに基づくシステムの品質,品質管理体制(安全性,情報セキュリティ対策を含む)に関する基本的な要件を明確にする
実現可能性の検討開発,運用,保守,移行,環境整備,品質に対する要件に対して,要員,納期,コストなどの前提条件で技術的・経済的に実現可能であるか検討する。
全体開発スケジュールの作成対象となったシステム全体を,必要に応じてサブシステムに分割し,サブシステムごとに関連する部門及び業務への影響を調査した上で優先順位を付ける。要員,納期,コスト,整合性などを考え,サブシステム単位に開発スケジュールの大枠を作成する。
システム選定方針の策定システムソリューションの適用ほかシステム化機能の整理とシステム方式の策定を具体化するために,システム(ハードウェア,ソフトウェア)の基本的な機能要件,構成要件,予算枠を明らかにする。システム選定の調査範囲を明確にする。
費用とシステム投資効果の予測システム実現時の定量的・定性的効果予測を行う。また,開発,運用,保守に関する期間,体制,工数の大枠を予測し,システム実現のための費用を見積もる。費用と効果を対比させ,システムへの投資効果と時期などを明確にする。
プロジェクト推進体制の策定支援費用とシステム投資効果の予測に基づいて,工数,要員,納期,コストなどの前提条件を確認するなど,プロジェクト推進体制の策定を支援する。
経営戦略,情報戦略,システム化構想との検証事業目標,経営戦略,情報戦略及びシステム化構想の実現性を検証するために,業務モデルの整合性,システム方式の実現可能性,及びシステム投資効果の正当性について検証する。
個別システム化計画の作成と承認個別システム化計画に関して次の事項を文書化し,情報システム部門の責任者又はCIOの承認を得る。
・具体化したシステムの開発・運用・保守の工数,費用及びスケジュール
・外部委託する場合は,その作業項目,スケジュールなど
・環境整備,教育訓練及び品質に対する基本要件などに関する前提条件

これらを踏まえて論述していきます。内容はこの表に記載されている内容であれば問題ないと思います。

このシラバスの内容を知らずとも、問題文に記載されている例を参考に論述すればステークホルダマネジメントと合わせて「個別システム化計画の基本要件の確認」「対象業務内容の確認」辺りの内容になるかと思います。

設問ア あなたが携わった個別システム化構想の策定において, 背景となった事業目標,事業戦略に掲げられている変革の概要,関係するステークホルダについて,業務特性とともに800字以内で述べよ。

ポイント

毎回同じような設問ですので、軸をぶらさず準備した内容で論述します。付け加える要素としては「関係するステークホルダ」の部分ですね。

この後に記載する内容を意識してステークホルダの特徴を記載していくと、論述が展開しやすくなります。

設問イ 設問アで述べたステークホルダについて,個別システム化構想案に対してどのような意見の相違があり,あなたはどのように意見を調整したか。個別システム化構想案の概要と意見の調整で工夫したこととともに,800字以上 1,600字以内で具体的に述べよ。

ポイント

これは自身の経験した内容(人から聞いた内容や関係者として知った内容でも論述できればOK)を記載していきます。ポイントを挙げるとするなら「ITストラテジストとして」を意識して論述します。

設問ウ 設問イで述べた意見の調整結果を反映した個別システム化構想について,経営層からどのような評価を受けたか。評価を受けてあなたが改善したこととともに,600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

ポイント

問2の設問ウに関しては事前に準備してきた内容がそのまま使えるかと思います。ここは時間をかけずに設問アと設問イに注力していきたいですね。

問3 異業種メーカとの協業による組込みシステムの製品企画戦略について

問3は組み込みシステムについてのテーマになります。毎年同じ構成ですね。

設問ア あなたが異業種メーカとの協業で企画・検討をした組込みシステムの製品の概要,企画・検討に至った経緯を,新市場の特徴とともに 800 字以内で述べよ。

設問イ 設問アで述べた製品において,異業種メーカとの協業を検討した理由,協業する各企業の分担範囲及びそのトレードオフ,各企業から挙がった課題及びその解決策として考えられる内容を,800字以上 1,600字以内で具体的に述べよ。

設問ウ 設問イで述べた異業種メーカとの協業について判断したことの妥当性,分担を考えた内容の妥当性,課題に対する解決策についての評価を,600 字以上1,200字以内で具体的に述べよ。

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